「あ、なら俺一緒に行きますよ」
黒マスクを指で摘んでパタパタと前後させる未星くん。彼が片手を軽く上げて名乗りを上げた。それはいいんだけど、意地でもマスクを外さないその姿勢が気になる。
額にはかなりの汗が滲んでいるが、マスクそのものを取り払う気配はないようだ。
「…オレンジ、ジュース…」
くぐもった声が聞こえる。その先に居るのは陽葵だ。状況が状況なだけに遺言にしか聞こえない。でも良かった、さっきの私の質問聞こえてたんだ。
「わかった、オレンジジュースね」
「あ、俺お茶な」
「俺もお茶で〜」
獅貴の肩を柔く押して退かし立ち上がる。陽葵の言葉に微笑んで返事をすると、ここぞとばかりに倉崎くんが手を上げる。
お茶という言葉に『じゃあ俺も』という風に涼くんが続き、その横に居た未星くんが呆れたように溜め息を吐いた。
「…すみません、紫苑さん」
「ま、まぁ、皆の分も買ってくるつもりだったし…」
苦笑して宥め、未星くんの後を追うように扉へ向かうと、獅貴が名残惜しそうに私のジャージを掴んだ。半袖シャツの裾を摘んで見上げてくる獅貴に思わず立ち止まる。
そういえば獅貴の飲み物を聞いてなかった、だから止めたのだろうか。
「獅貴は何が飲みたい?」
さっきから辛辣な態度で接していた自覚があるので、今度は柔らかく問いかける。私の穏やかな声に安堵したのか、獅貴はほっと息を吐いた。
「…何でもいい、早く戻って来い」
獅貴らしい答えに笑いが溢れて、無意識に靡く黒髪を撫でてしまった。
獅貴はやっぱり、気持ち良さそうに目を細めた。

