「…つーか、今更だろ」


「………」


下から聞こえてきた小さな低音に何も言い返せない。確かに今更だ。普段の授業サボってるんだから行事もサボったところで…って話だよね。


ていうか獅貴、話聞いてたんだ。



「…のど、かわいた…」



死にそうな枯れた声でそう呟いたのは、体勢がもう瀕死の陽葵だ。彼の背景だけオアシスの無い砂漠のように見える。セリフも姿も完璧にマッチしてしまっていた。


陽葵の言葉に誰一人動く気配が無い。こういうところは薄情なんだよなこの人たち…。



「…私、飲み物買ってこようか。陽葵は何が飲みたい?」


「おい加賀谷、あんまチビのこと甘やかすな、駄目になるぞ」



苦言を呈すのは手で風を扇ぐ倉崎くんだ。言ってることはごもっともなのだが、今の彼の一言で陽葵の限界に気が付いた。何故なら陽葵は今、倉崎くんに反論していない。


チビという禁句を漏らされたのに、だ。これはかなり重症らしい。



「…俺も行、」


「だめ。獅貴はここに居て」



ガーンと落ち込んだ獅貴には悪いが、ここは丁重にお断りさせて頂く。完全に私の問題なのだが、獅貴と2人きりになるのは避けたい。


今も尚、ほんの少しだが動揺しているのだ。獅貴が間近にくっ付いているこの瞬間が酷く疲れる。無駄に体に力が入ってしまう。