「両親が死んだの、事故で。それですぐに祖父母に引き取ってもらう予定だったんだけど、勘当した息子の子供なんて育てたくないって、嫌がって」
「…っ」
足首に添えられた手が、少し震えている。怒っているのだろうか、私の為に。だとしたら、何だか嬉しい、そう思う。
息を呑んだ彼にまた苦笑して、幼い日のことを思い出した。今思い出しても、苦い記憶でしかないが。
「祖父母が折れるまで、ずっと施設にいた。やっと引き取られた後も無視されるし、中学入った途端厄介払い。まだ施設に居た時の方が、幸せだったかも」
ふふっと笑うと、彼は一瞬、瞳に悲しそうな情を映した。嫌いな私の為に悲しんでくれるなんて、本当に優しい人なのだろうなとぼんやり思う。
やがて流川くんは、そっと私の足首から手を離す。足を優しく床に下ろされる感覚に微笑んだ。何処までも、最後まで、彼は気が利いてとても優しい。
「…だから分かれとは言わない。でも私は、レッテル貼りがどれだけ不快なものかってこと、理解してるつもりだよ。親が同時に死んだってだけで、可哀想だとか、酷い時は嘲笑ってくる奴だって居たから」
らしくもなく感情的になっている自分に驚く。こんなのは駄目だ、いつだって冷静で居ないと。他人に弱みを、見せないように。
私は全然、苦しくなんてないから。
「…私は君に、君みたいな人に、本当に感謝してる」
「それは、どうして」
心做しか彼から放たれる声は穏やかだ。そんなことは無いと牽制してみても、柔らかいものに聞こえてしまう。都合のいい考え方が、都合のいい夢を見させているのだろうか。

