「はぁぁ…」
今日一大きな溜め息を吐いて、重い足で廊下を歩く。さっき出たばかりの向こうの体育館からは、女子生徒が楽しそうに笑う声が響いている。
授業中の為か誰一人歩いていない廊下。右足を引き摺って歩く私の姿は酷く滑稽だろう。
バレボールの練習の最中、今朝の"アレ"の所為でボーッとしていた頭。油断していたその時、「加賀谷さん!!」という周囲の女子の大きな声で我に返った。
一直線に此方へ飛んでくるボール。持ち前の反射神経を活かして後ろに躱したは良いものの、その拍子で足首を挫くという失態。
「いっ、たぁ…」
なるべく右足首に負担が掛からないよう工夫して歩いているにも関わらず、響く激痛は相当のものだ。
「保健室、どこ…」
今回ばかりは方向音痴だからと迷っている暇はない。一刻も早く負傷した足をどうにかしたい、そして冷やして座りたい。
切実な心の叫びが届いたのか、勘だけで進んだ曲がり角の先の扉には『保健室』の文字。昔から運だけは良いのだ。
「…失礼します…?」
コンコン、と控えめに扉をノックしたが応答がない。どうやら保健医は何処かへ外出中のようだ。と言っても、諦めて戻る訳にもいかないので勝手に入らせてもらうことにした。
室内を奥まで進んだところで、ベットに寝そべる人影に気付く。カーテンを閉め忘れてしまったようだ。
「……ん?」
大丈夫かな、と心配しながらも氷を探そうとして、徐々に明確になったその人影に違和感を抱く。違和感と言うより、既視感か。
あの灰色の髪。何処かで見たような…―――
「あ!!」
「……あ?」

