「…そういうの、やめた方がいいよ」
少しばかり冷たい声音になってしまった。自分でも驚くと同時に、獅貴がピクッと肩を揺らしたのが気配で分かった。
「そういうの、って何だ」
心底分からないというような声に振り返る。獅貴は真っ直ぐに此方を見つめていて、その瞳には迷いがない。
だからこそ、勘違いしてしまいそうになる。
「……」
私はしゃがみ込んだまま、少し顔を伏せて唇を引き結んだ。何故か苦しい胸と、熱い目頭を隠す為に。
どうして私は今、こんなにも苦しいんだろう。獅貴がプロポーズ紛いのことをしてからだ。嘘だと分かって聞いていたはずなのに、何故か苦しい、傷付いている。
「そういう…人の心弄ぶようなこと、やめた方がいいよ、って言ってるの」
硬い印象の強い獅貴だからこそ、そう感じるのだと思う。
きっと惚れれば獅貴は一途だから、揶揄いが辛い。これでももう入学当日からの付き合いなのだ、獅貴のことは何となく、分かっているつもりだから。
でもたかがこれしきの冗談に、自分が動揺しているという事実に驚愕する。獅貴にとってはなんて事ない言葉のはずなのに、どうして私はこんなにも―――
「弄ぶって、何だ。俺が紫苑を?」
「…そう、だよ」
ザッ…と床の擦れる音が鳴って、獅貴が隣に膝を着く。顔を覗き込まれそうになったから、慌てて反対方向に顔を逸らした。このみっともない情けない表情を見られるわけにいかない。
けど獅貴は、そんな甘いこと許してくれない。
グイッと腕を引っ張られて、頬に添えられた大きな手が強制的に逸らした顔を戻す。切れ長の鋭利で整った瞳が、丸く大きく見張られた。

