「紫苑の部屋を汚す訳にはいかないだろう」


「あぁ…そういう…」



単に常識だからとかそんな理由ではないのね…。



呆れると同時に、少し安堵する。獅貴の優先順位の一番上はきっとまだ私なのだ。そう考えると、何故だかほっとして、そう考えてしまった自分に動揺した。


私はどうして、獅貴の答えに満足しているんだろう。



「…そういえば、初めてここに来た時は靴揃えなかったな…悪い」



「……え?」



言われて気付く。確かに初めて獅貴を部屋に入れた時はしなかった。けどあんなに怪我をしていたんだから、そこまで手が回らなくて当然だ。


しゅんと肩を落とす獅貴に、何だかおかしくなって笑い声を上げる。変なところで真面目なのだ、この男は。



「いいよ、状況が状況だったんだから。
細かいことは気にしなくて大丈夫」



言いながらキッチンへ戻る。キッチンと言っても、居間や玄関から丸見えで、辛うじて小さなシンクがある程度のもの。


こじんまりした冷蔵庫は、たくさん物を入れられるわけではないけれど、そもそもたくさん食材を買うお金が無いので問題無い。



「………」



キッチンに立つ私に、獅貴は無言で着いてくる。邪魔をしてくるわけでは無さそうなので何も言わずに弁当作りを再開した。


再開と言うが、もうほとんど完成しているようなものだ。だがこの安っぽさはどうにか出来ないものだろうか。



六割の余白がもやしの白で埋まってしまっている。ほんの気持ち程度に詰めたふたくち分くらいの白米も、白が強調されてとても残念な見た目になっている。



緑が何も無い。そして肉も無い。果たしてこれが弁当と呼べるのか。