心做しか、月明かりがいつもより透き通っていて、綺麗だ。
「…帰ろう」
帰る場所。今日は昨日までと違って、迷わなかった。一瞬で頭に浮かんで決めたのは、ここ最近専らの寝場所だった倉庫じゃない。
拗れまくってぐちゃぐちゃになってしまったもの。すぐにその糸を解けるとは思っていない。けれどその糸に、指をかける勇気は抱いてみる。
玄関の扉を開けたら『ただいま』と言うべきだろうか。それとも『ごめん』と言うべきだろうか。
「………」
そんなことを考えて、僅かに苦笑しながら月明かりの下を歩き始めた。
その足取りは、軽いものだった。