ANARCHYに入った当時、弟は小学六年生だった。まだ小さな弟。中一までは面倒を見ていたものの、中二になってからは滅多に家に帰らなくなったこともあり、話す機会が徐々に減っていってしまった。


俺は自分のことばかりのガキで、周囲の状況を見渡すことが出来なかったのだ。


母は以前と変わらず穏やかだった。繁華街に通うようになった俺に愛想を尽かすこともなく、変わらぬ態度で接してくれた。



それに甘えてしまっていたのは、事実だ。



問題は、甘えているという事実に気が付かなかったこと。



当時の繁華街は今ほど穏やかではなくて、抗争が頻発していた。族の数が多く、統治されていなかったのが原因でもある。



中小の比較的規模の小さい族を吸収し、瞬く間に大きくなったのが『ANARCHY』だった。



連日続く抗争で、ただでさえ帰らなくなっていた。漸く大きな抗争が終わって家へ帰ると、既にいつもの家庭は崩壊していた。



丁度三年に上がって間も無い頃。弟も中学生になり、久々にその姿を見る。帰ると向けられる屈託の無い笑顔はそこには無くて、俺を睨む弟の眼差しには、軽蔑と諦めが宿っていた。



ANARCHYでは既に、幹部の立場まで這い上がっていた。けれど俺は『ANARCHYの影響力』を、全く理解していなかったのだ。



度重なる抗争と喧嘩で、俺の顔も名前も、『ANARCHYの未星理史』として、広く繁華街に知られてしまっていた。同時に、同じ中学に通う弟の存在も、必然的に矢面に広まってしまい。



何も知らない無関係の弟が、クラス内でも恐怖の対象となってしまったらしい。