苦笑して言うと、未星くんは一瞬苦しそうに顔を歪めて、けれどすぐに笑顔を作った。そうですか、と返される言葉が、慰めを含んでいるようで、少し心に響いた。


何処までも優しい声音が、温かくて、悲しくて。



「…。…うん、大丈夫だよ」



「……」



呟いて頷く私を、隣を歩く未星くんがそっと窺う。そんな彼を振り返り、にこっと笑った。少し強ばった彼の肩から、力を抜かすように。



「何とかなるよ。生きてれば、いつだって話せるし。誤解があっても解けるし。本音を言いそびれたなら、また伝えられるし」



もう居ない人には、どれだけ後悔しても、何も伝えることなんて出来ない。会うことも出来ない。誤解があっても、解くことが出来ない。


兄弟なら、家族なら、ちゃんと向き合うべきだ。大切な人が相手なら、普段から本音を言い合うべきだ。



失ってから気付くなんて、悔しいから。



「弟くんと、ちゃんと話せるといいね」



心からの笑顔を浮かべて、囁いた。未星くんは一度泣きそうに俯いて、それでもすぐに顔を上げた。


マスク越しの表情は分かりにくい。真っ直ぐな瞳の奥も、読みづらい。けれど、後ろ向きな感情は抱いていないはずだ。そうだと、信じたい。




「―――ありがとう、紫苑さん」




完全には吹っ切れていないのだろう。まだ迷いの残る揺れた声が気がかりだったが、それ以上は何も言うまいと少し微笑むだけで、後は口を噤んだ。