牛乳を活用する料理をネットで探さなくては…と眉を寄せて考え込んでいた為か、前方の気配に気が付かなかった。
「……紫苑さん?」
「(やっぱり飲み干すしか――)…あ、君は…」
君は…とカッコつけて言ってみたはいいものの、その後すぐに頭の中が"?"で埋まる。誰だっけこの人、と脳内グルグル状態である。
そんな私を察してくれたのか、黒マスクの下に隠れた顔に苦笑を浮かべた彼が、一歩近付いて口を開いた。
「えっと、覚えてます、かね。一度視聴覚室でお会いした…」
「あ、未星くん、だっけ?」
そうだ、倉崎くんの印象が強すぎて忘れかけていたが、あの時の黒マスクくんだ。お母さん属性の優しい青年だ。こんな覚え方もどうかと思うけど。
ほっと安心したように微笑んだ未星くんは、そうですと頷いて私の足元に視線を移す。大きな袋に気が付いたようだ。
「それは…?」
「あぁいや、ちょっと買いすぎちゃって」
ははっと掠れた声で笑うと、優しく微笑んだ彼が此方に近付いて軽くしゃがむ。どうしたのかと目を瞬かせると、二つの袋を同時に持ち上げた。
「女性が持つには重いですね、持ちますよ」
思わずキュンとしてしまった。これはモテる。危うく惚れるところだった。
「あ、ありがとう」
染まった頬には気付かれていないはずだ。もう夜だから辺りは真っ暗で、顔色なんて早々捉えられない。