うっざ。今度は危うく口にしてしまう所だった。何だこの男は。人をイラつかせる天才か。
痛々しいセリフもこの男が言うと絵になるのは何故なのか。やっぱり世の中顔だ、顔が良ければ何を言ってもカッコよく聞こえるものだ。
キザなセリフはイケメンに限るってよく言うし。言わないか。まぁそんなことはどうでもいいのだ、とにかく早く教室へ戻ろう。
「はぁ…分かった分かった。
良いから君も早く教室戻りなよ」
「冷たいなぁ、傷付いちゃうよ?」
はいはい…と片手を軽くしっしと振って、彼の横を通り過ぎる。その時手を掴まれたりはしなかったから、流石にそろそろ見逃す気になってくれたのだろうと満足気に頷く。
と思った矢先、嶽がふと何かを思い出したように「あ、」と声を上げた。
「紫苑ちゃん」
「…なに?」
今度は何だと振り返る。前方、つまり私の進行方向とは真逆を指差した嶽は、キラキラスマイルで口を開いた。
「教室こっちだよ」
「……ありがとう」
僅かに赤く染まった頬は顔を逸らすことで誤魔化した。
けれど直ぐに気付かれて、嶽の「照れてるの?かわいいー!」という茶化すような言葉に殺意が湧く。
この方向音痴もどうにかしないとな、と溜め息をつき、もう一度嶽の横を通り過ぎた。