せめて単位は取りたい。途中からでも早く戻らなければと考えるが、目の前には未だ彼が居座っている。


けれど流石の嶽も私の焦燥感に気が付いたのか、はたと動きを止めてこくりと首を傾げた。



「あ、そっかそっか。紫苑ちゃんはイイコだもんね、ちゃんと授業に出てるんだもんね、偉い偉い」



…心做しか馬鹿にされているような気もするが、気の所為だろうか。ムカァッと青筋が立ったのは知らないフリをして、無理やり笑顔を浮かべる。



ていうかお前はどうなんだよ、留年しても知らないぞ。



「…分かってるならもういい?
私イイコだから早く授業に戻りたいの」



嫌味ったらしくそう言うと、やっぱり彼は可笑しそうに大きく笑う。お腹に手を当てて涙すら流しそうな勢いだ。そんなに笑う要素あった?


嶽は笑いのツボも浅いらしい。浅い性格してそうだから特段驚きはない。外見が良くても中身すっからかんな男って結構居るし。


目の前のこの男がいい例。



「うんうん、ごめんね。今日は本当に君に会いに来ただけだから、邪魔する気は毛頭ないよ」



もうかなり邪魔してくれてるんだよな、という本音は口に出さずに噤んで抑える。私は空気の読める、そして優しい人間だから。



「…あぁ、そう。
じゃあもう二度と会いに来ないで欲しいな」



「それは無理だよ。君と俺はたった今邂逅を果たしたばかり。これからが本番でしょ?」