至極残念そうな顔。さっきとは違って、今の表情には本音が浮かんでいる。突然取り繕わなくなった彼に困惑して、矢張り自分のペースに持っていくのは無理だなと落胆した。


本音を吐いても嘘を付いても、結局よく分からないままなのだ、この男は。



「…何言ってるか分からないけど、私今褒められたの?」



理解出来てない時点で馬鹿のような気もするが、そこはどうなのだろう。彼の"馬鹿"の基準もよく分からないな。


嶽はククッと喉を鳴らす。吹き出しそうなのを必死に堪えているような動きに首を傾げると、前髪を軽く片手で掻き上げて微笑んだ。



「ははっ!無自覚か、面白いね。君の魅力は容姿だけじゃないみたいだ。タイプじゃないけど、目が離せないな」



緩く、軽く、それこそ手馴れた仕草で語る嶽。やっぱり何処か、涼くんに似ている。とは言っても、あの人は今確実に苦労人枠へシフトチェンジしている訳だから、似ているというのは語弊があるか。



嶽は天性のチャラさだ。苦労人枠には程遠い。なんなら嶽の傍に居る私が今苦労人枠に収まっている。



話の通じない男ってこれだから嫌なのだ。最近ときめく男性は専ら鴻上さんである。彼の絶対的安心感は異常。



「……あ、」



と、どうでもいいことを考えている間に、授業開始の鐘が鳴ってしまった。