諦めて溜め息をつくと同時に、彼の言葉への苛立ちは増すばかり。何が『もっと話がしたかった』だ。話なんて通じていなかったじゃないか。


嶽が好きに話して、私の質問には答えずに。そんな一方通行の言葉の投げ合いを、果たして"話"と言うのかどうか。



けれど当の本人は至って真面目に語っている。本当にもっと話したかったような表情と口振りだ。



よく分からない男で、よく分からないからこその薄気味の悪さ。噛み合わない話もそうだし、何より相手のペースを絶対に作らない躱しの上手さもそうだ。



「…はぁ」



これ以上は此方から話しかけない方がいいな、と溜め息を吐く。口を開けば開くほど、この男のやり口に嵌るだけだと気付いたから。



嶽はそんな私を見て意外そうに目を見開く。



「…。…へぇ、そう…」



ゆるりと目を細めた彼に、言い様の無い不気味さを感じて肩を揺らす。たった今まで話していた嶽とは明らかに違う雰囲気に、怖気付いた所為だ。


甘く漂うような空気は気配を変えて、鋭い矢のような、釘のような印象を与えてくる。



「…なんだ、ちょっと失望しちゃった」



興醒めだとばかりに肩を竦めた彼は、独り言のように呟く。



「…俺、馬鹿な子がタイプなんだよねぇ。だから期待してたのに、君は駄目だ。ちゃんとしてる。ちゃんと…頭が良い」