残念そうな口振りだが、面白いという感情を隠そうともしない笑顔に表情が歪む。ちっとも残念では無いのだろう、癪に障る男だ。


嘘臭い彼を見ていると、次第に本音が見えなくなる。これが彼の"やり方"なのかと理解するには、少し遅かったようだが。



「…で、結局君なんなの?」



私の質問には答えない。微かに口角を上げるだけで、彼は一度紺色の髪を指に巻いて微笑んだ。



「……」



自分からは言うだけ言っといて、私の問いに答える気は無いらしい。情報を無闇に与えるのが嫌なのかと疑ったが、だとしたら初めに名前を名乗った理由は一体何なのか。



一番大事な情報を晒しておいて、細かい質問には答えない。彼の意図が分からなくて、らしくなく胸の内の動揺は収まらない。



いつもなら冷静に判断できるのに、この男のペースに呑まれてしまう。



「…もう授業が始まってしまうね。
もっと話がしたかったんだけど、ここまでかな」



視線を斜め上に逸らして言う彼。何処を見ているのかと視線を辿って、先にある時計に気が付いた。嶽の横には丁度教室の扉があって、そこから中の壁掛け時計を一瞥したようだ。



確かに時計の針は、授業の二分前を指している。これではもう、時間内に教室へ向かうことは出来なさそうだ。