名前で呼んでいいなんて言ってないのに、と眉を寄せる。眉間に皺も寄っていたかもしれない。そんな不機嫌丸出しの私に臆することも無く、嶽は楽しそうな笑みを崩さない。


結局何の用なんだと息を吐くと、私の疑問を察したのか、嶽が漸く口を開いた。良かった、話をする意思はあるようだ。



今は(・・)何もしないよ?今日は噂の『ANARCHYのお姫様』を確かめに来ただけだから」




内緒話をするように、彼は唇に人差し指を添える。嫌味な仕草に見えないのは、偏に甘い薬のような美形が原因だろう。


パッと見の印象としては涼くんに似ているが、よく見ればあまり似てはいない。


涼くんが活発な甘い色気だとしたら、嶽は這うように纏わり付く執着的な色気だ。



「………」



どう返せばいいのか。躊躇う私に何を思ったのか、ふふっと意味深に微笑んだ彼は一歩退く。やはり気配も前触れも無い、蛇のような動き。



胸に手を当て軽くお辞儀をする姿は、宛ら何処かの王子のようだ。それでも柔らかい印象を抱けないのは、彼の『嘘臭い』言動の所為なのか。



「…想像以上に可愛らしくて驚いた。芹崎のモノじゃなければ、俺のにしてたのになぁ…」