「へぇ…確かに可愛いね…。
…芹崎が惚れるのも無理ないかな」



芹崎って誰だ?と一瞬脳が混乱して、入学式の日のことを思い出す。名乗ってから一度も呼んだことが無かったから忘れていたが、獅貴の苗字だ。


そうか芹崎か、忘れないようにインプットしておこう。呑気にそう考える私に気付いていないようで、男はスッと体を離した。



「俺は日下(くさか)。日下(がく)
…もっと早く会いたかったんだけど、君の周りはガードが固くてね」



日下嶽、軽く口を動かして名前を呟く。ただ聞くだけでは直ぐに忘れてしまうからだ。




「何で私に?私は君のこと知らないけど」



「ははっ!」と可笑しそうに笑う彼。それもそうだと眦を緩めて、紺の髪をくるりと指に絡ませる。


甘い仕草だ。こんな状況でなければ見蕩れていたかもしれない。そう思わせるほどの、従ってしまうような危険な何かが、この男に纏わり付いている。




「俺は君を知ってる。だから会えてとても嬉しいよ。俺のことは嶽と呼んで、紫苑ちゃん?」




…不愉快だ。そんな感情を瞳に込めると、男は、嶽はまたもや愉快気に笑い声を上げた。