軽くウェーブの掛かった長髪を、彼は低い位置で緩く結んで肩から胸に流すように下げていた。人形のような印象を受ける無機質な美形に、ニヒルな笑みが浮かぶ。



「…加賀谷紫苑、ちゃん?」



こくっと傾げられた首に眉を顰める。冷たい姿形とは裏腹に、声は低めながらも甘さがあった。


なぜ名前を知っているのかと問う前に、彼はするりと近付いて視線を合わせてくる。反射的に少し後退る私を、歪んだ笑顔で見つめてきた。



「…誰って、聞いてるんだけど」



睨んだつもりだったが、手は微かに震えてしまっていた。顔も睨むと言うより、強ばっていたかもしれない。




この男の纏う空気が、何だか嫌いだ。




彼は愉快気に口角を上げると、音も無く手を伸ばして私の髪に触れてきた。気配も前触れも無いから、躱す暇が無い。本当に抵抗する間もない、素早い動きなのだ。



「っ…!」



長く青白い指先が微かに頬に当たる。目元の横に零れた髪を掬って耳に掛けてくる彼に、一体何がしたいのかと怪訝な視線を返した。


ふわりと香るアンバーの匂いに頭がくらりと回る。甘い匂いも甘い笑みも、意識を朦朧とさせる毒のようだ。