急いで教室に戻ろうと足を進めたが、どうやら悠長に過ごし過ぎたらしい。来る時迷ったこともあって、そう簡単には戻れそうにない。


取り敢えず声が聞こえる方へ行くかと振り返る。まだギリギリ授業は始まっていないだろうし、生徒の声が多く聞こえる方に教室があるはずだ。



「……?」



ふと何かの音が聞こえた気がして立ち止まる。声じゃなく、音だ。



その音はだんだん大きくなる。カツカツと響くそれが足音だということに、私は漸く気が付いた。足音が小さくなる気配は無いから、きっと此方に向かってきている。



何だろうかと疑問が浮かんで、数秒悩んだ末に踏み出そうとしていた足を抑えた。



なんだか少し、嫌な予感がしたからかもしれない。



立ち止まったまま静かに息を殺す。僅かな時間の後、ふと背後の気配を察して素早く振り返った。




「誰」




短く問い掛ける。すぐそこの角から現れたのは、見覚えのない男子生徒だった。



深い紺色の長髪に、蛇のような執着を感じる瞳。顔は整っている方なのだろうが、如何せん獅貴たちを見慣れてしまったせいか、それ程魅力を感じられない顔付きだ。