初めに獅貴が紫苑を連れてきた時は、奴にしては珍しく女に騙されたかと呆れた。俺らに近付いてくる女にろくな奴は居ないからだ。



だからこそ、今なら初めの違和感に納得出来る。



紫苑なら、むしろ俺らのことを何も知らないだろう。何も知らずに獅貴に着いてきたことは叱らなければならないが。



何故かチビにも好かれてやがるし、涼也の奴もらしくなく本当の笑顔を晒して。あの人たらしの紫苑なら、こうなってもおかしくない状況だ。



だが、何だろうか。この言い様の無い感情は。



悔しさだろうか、或いは寂しさだろうか。『昔』の紫苑を知っているのは俺だけだろうが、ここに居るのは『昔』の紫苑じゃない。『今』の紫苑だ。



"俺だけ"の紫苑は、もう居ない。



花が咲くような、あの光のような笑顔はそこには無い。あの頃の紫苑は消えて無くなって、ここに居る紫苑は"俺の紫苑"じゃないのだ。



それが悔しい…いや、寂しい。よく分からないが、俺はそれが寂しいのか。悔しいのか。



とにかく俺は『昔』の紫苑を求めているのだ。それだけは確かなのだ。