『っ…紫苑、紫苑ッ…』
小さく、細い体。これ以上力を入れたら折れてしまいそうだと此方が怯えるほど、紫苑は何処までも、儚げな存在だった。
この小さな少女に、俺はずっと―――
『ぜんくん…ぜん、くん…っ』
俺の背中に腕を回して、紫苑は漸く、この状況になって漸く、縋り付くように抱き締めてきた。時折吐き出す言葉は『パパ』だとか『ママ』だとか。嗚咽で塗れて、聞き取りづらかったが。
馬鹿な俺でも少しは理解出来たのが、紫苑はまだ、両親の死を受け止めきれていないということ。
こんなに小さな子供が、残酷な現実を全て、甘んじて受け入れられるわけが無かったのに。
『…紫苑』
背中を撫で擦って呼び掛ける。涙で塗れた幼い表情を見下ろすと、彼女は僅かに首を傾げた。
ポケットにつっこんでいた"それ"を、半ば押し付けるように手渡す。
『…?…これ…』
親父がお袋にやった、最後のプレゼントだったらしい。持っているのが辛いと、泣きながらゴミ箱に放り捨てたそれを、俺はどうしても、そのまま見ぬ振りをすることが出来なくて。

