全部俺が、俺の為にしたことだった。
俺の家庭も、一概に『普通の家庭』とは言えなかったから。
親父が他の女と浮ついてから、お袋はいつも陰で泣いていて。俺はそれを知っていて。だからこそどうしようもない虚無感に苛まれて、一人ぼっちが怖くて。
そんな時、紫苑が俺を救ってくれた。紫苑が俺の支えだった。
『ありがとうぜんくん。ありがとう―――』
穢れを知らず、無垢で、ただ感謝を込めたその言葉が、俺は嫌だった。聞きたくなかった。俺の惨めさを、思い知らされてしまうから。
だって俺は、お前みたいに潔くなれない。
離れたくない。紫苑を手離したくない。
『…俺も、ありがとう』
ぱあっと瞳を輝かせて、屈託のない笑顔を浮かべる紫苑。俺が言葉を返しただけで、こんなにも嬉しそうに笑ってくれるのか。
眦に涙を滲ませて、それでも紫苑はもう、俺に縋り付いたりしなかった。俺だけが、紫苑に縋り付きたい衝動を、必死に堪えていた。
『また、会えるよ』
『………、』
俺の言葉を繰り返し、自分に言い聞かせるように話す紫苑。俯いたまま頷くが、俺はもう分かってる。

