『お引越し、するの…遠いところ。
だからぜんくんには、会えないの…』



震える声で、紫苑は何とか言葉を紡ぐ。嗚咽混じりで所々分からなかったが、俺は聞き取った言葉を繋ぎ合わせて、彼女の壮絶な生活を知る。



少し前に、紫苑の両親は亡くなってしまったらしい。



親戚に引き取られ、ここではない、ずっと遠くの場所へ引っ越すのだと。だからもう、俺には会えないのだと。



涙ながらに語る紫苑に、浮かんだのは寂しさ。そして、紫苑が俺との別れを惜しんでくれているという事実に対する、歓喜。




『…大丈夫だ、ぜってぇまた会える』




確証なんて無い。或いはきっと、これは俺の願望だったのかもしれない。その言葉を聞いて紫苑は嬉しそうに笑っていたが、俺は笑えなかった。



『――ぜんくんはいつも、私を守ってくれるね』



『…っ』



その幸福そうな微笑みが、辛くて。



一人ぼっちで居る時も、俺が助けてくれたんだと、一緒に居てくれたんだと。だから自分を守ってくれたんだと。ありがとうと紡ぐ紫苑に、俺は何も言えなかった。



だって俺は、違う。