そう語ると、倉崎くんは呆れたように目を細めて肩を竦めた。「利口なもんだな」とため息混じりに呟かれて、返事はせずに微笑む。
「…なら、さっさと戻れ。
馬鹿共もお前のこと探してんじゃねぇか?」
…馬鹿共って、獅貴達のことだろうか。中々辛辣だ。倉崎くんらしいと言えばそれまでだが。
酷い物言いに反論することは無く、私はそうだねと一言返して立ち上がった。そういえば獅貴達から逃げてきたんだと、今更思い出して。
「…怒るかな」
「さぁな」
これから受け止める彼らに対して、少し震えた声が出る。特に獅貴だ、あの男は怒るかもしれない。ていうか絶対怒る。
陽葵は宥めれば何とかなるか。あとは涼くんに場の空気を落ち着かせてもらおう。
「はぁ…」
憂鬱な気分をそのままに、踵を返して教室の扉へ向かう。取っ手に手を掛けると、背後から呼び掛けられた。
「加賀谷」
「…っ?」
お前としか呼ばれたことがないから、名前を呼ばれる違和感に肩が揺れる。振り向くと、興味無さげな色は瞳から掻き消えて、真剣そうな視線に射抜かれた。