まさか、謝られるとは思わなかった。
「…、気にしてないよ。
私もごめんね、気を遣わせてたなら、謝る」
細かいことを気にするような性格には見えなかったから、何を言われても反論することはしなかった。彼はこう見えて、意外にも気にするタイプなのかもしれない。
だったら自分のことを他人事にしてた私の責任でもある。
「…それに」
暖かな空気に馴染ませるように、放った声は穏やかだった。
「それに、倉崎くんとちゃんと話したの、これが初めてだよね。やっと話が出来て嬉しい」
ふふ、と淡く微笑むと、彼は驚いたように目を見開いていて、次の瞬間、何かを必死に堪えるように眉を寄せ、口元を歪ませる。
ひいては泣いているようにも見えるその顔に、私は何も言えず、言葉を失った。
「…そう、だな、俺もだ」
「………」
一体何が、彼にそんな表情を強いているのか。
きっと何か、小さくないものを抱えているのだろうとは思う。彼の中には常に、身を縛るような何かがあって、それに逆らうことが出来ずに。
初めて会った時に感じた違和感を、私は未だに聞けないでいる。

