拾った総長様がなんか溺愛してくる(泣)【完】




疑問に思って見上げると、彼はそれを察してスッと手を離す。逸らされた顔は見えなくて、それでも空気の穏やかさだけは何となく感じた。



「…何でもねぇ、気にすんな」



すごい気になるけど…。



聞き返したい衝動を堪えて、何も言わずにこくんと頷くだけで留めた。彼のいつもの威圧感と緊張感はなりを潜めて、だからこそ体からは力が抜ける。


夏が近付いているせいか、教室内の空気は暖かい。空き教室で使われていないからかクーラーも効いていないようだ。




「…悪かった」



「……?」




顔は逸らされたまま。表情は見えないが、その声には後悔と、本当に申し訳なく思っているのだろう、落胆した色が見えた。


悪かったと、突然降ってきた謝罪に首を傾げて、私はまた、しゃがみこんだ体勢で息を潜め、彼の言葉を聞き逃さないようにじっとする。




「初めて会った時、嫌味な事ばっか言っちまったな。だからその、悪かった…」




ダランと下げていた腕を持ち上げて、その手を首の後ろに当て擦る。ぎこちなさを誤魔化すようなその仕草に、私はぱちぱちと瞳を瞬かせた。