こんな状態で書いた歌、誰も聞かないかもしれない。
仲間にも作ったことを教えてないのだし、誰にも聞かれないなら、初めから無かったようにしてしまえばいい…

誰も心配してくれない、一人っきりで風邪を引いた日に書いた歌だ。

よりにもよって、誰かを励ますためのエールソング。

誰より、自分が風邪を引いたその日に、誰かに励まされたかったくらいだ。
こんな歌を次のライブになんて、仲間に言えるわけがない。

歌詞を書いた紙を丸め、投げ捨てる。

「本当にいりませんか?」

「!!…誰だ!」

いきなり現れた男。
場所はボロアパートの、俺の一人きりの部屋。

「泥棒か!?どっから入った!?盗むものなんて、ここには無い!」

窓もドアも、鍵をして締め切ってあったはずだった。

相手は平然と続ける。

「自分だけでなく、その歌で、いつか誰かが誰かを励ませると…その歌に、いつか誰かが共感してくれると、そう思いませんか?」

いつの間にか俺の手にはまた、くしゃくしゃになっていた、俺直筆の歌詞カード開かれてあった。

「……。」

もう一度、開かれたカードの歌詞を見つめた。

「歌って下さい。仕舞われてしまうには、まだ早いです。」

いつか、励ませるだろうか?
この歌で誰かを…

男はいつの間にか消えていた。

そう、どうせなら、誰かに聞いてもらってからでも、もしかしたら遅くないかもしれない…

この、誰かに捧げる為のエールソングを…