気付くと、たくさんの本棚に本が置かれた場所にいた。
よく周りを見渡すと本は、たくさん、なんてものじゃなかった。

「…!!」

数え切れないほど。それも、一生掛かっても。

遥か彼方まで本棚が続いていて、ひしめき合って本が並んでいる。

「どこ……おばあちゃん…!!」

私の思わず叫んだ声に、さっき私の前にいた男の人が遥か向こうにいて、私に気付いたらしい。こちらに向かってフワリと飛んできた。

「来たんだね?間に合って良かった。この本棚に入れてしまうと、よほどのきっかけが無ければ思い出せなくなってしまうからね。おばあちゃんの作ってくれた物語があったことも、その内容も。」

「え……」

おばあちゃんとの思い出のお話を、忘れてしまうなんて…

「ここは『物語の行き着く場所』だから。忘れ去られようとする物語は皆来るんだ。だから、作られた物語の分だけ本がある。」

「物語の分だけ……」

男の人は、はい、と私に本をしっかりと手渡した。

「大切なんだろう?時には忘れてもいい、辛くなるなら。でも、手放そうとしてはいけないよ。君のもとから無くなってしまうからね。」

私は突然目の前が真っ暗になった。

「無くして、しまわないように……」

男の人の声が響いて、グラッと体が揺れた。


気付いて瞑っていた目をゆっくり開くと、そこは私がさっき歩いていた道だった。

本はもう無い。
でも……

「忘れてない…おばあちゃんのお話……!!」

眠れない私におばあちゃんがしてくれた、私の大好きなお話。
全部覚えている。


私はもう忘れることは無い。

きっと、これからもずっと、この胸に…