沈黙が気まずくて、せっかく頂いたスコーンをまだ温かいうちに食べなくちゃ、と思い出す。
パカッと割るとまだ熱々の中からは湯気が立っている。
クロテッドクリームとジャムをたっぷり塗って頬張ると、濃厚なクリームとフレッシュなジャムの甘さが広がる。
優しい甘さ。すごく美味しい。
思わず笑みがこぼれてしまった、慌てて口元を手でおさえるけど、手遅れだった。
城田くんは私を見て、言う。
「いいんじゃない、イイコじゃなくても」
「へ」
城田くんは紙のナプキンを手に取ると、その腕を私に伸ばして口の端を優しく拭う。
…えっ、何かついてた?!
慌てて唇に触れる。
「慌てすぎ」
低い声が私の鼓膜を震わして、それだけで私の顔は一瞬で熱くなって、心臓は口から飛び出そうなくらいにうるさく鳴った。
「俺は、久原さんがイイコすぎなくてむしろ安心した。つか、べつにさほどワルイコでもないよ」
「ううん、私ワルイコだよ、だってお母さんのことなんてどうでもいいと思ってる」
「…当たり前じゃね?相手が母親でも誰であっても、そんな態度取られてりゃそうなるでしょ。普通だよ」
それは、私にとって大きな衝撃だった。
まさか、お母さんの悪口を言ってそれを当たり前だと肯定されるとは思ってなかった。



