「俺は紙の本がいい」


あ、終わってなかった…よかった。


私の向かいにある椅子に腰掛けて、頬杖をつく。
顔は、そっぽを向いている。


「紙、私も好きだな。ページめくる音とか、本の匂いとか好き」


目線だけこっちに向けて、キュウッと目を細める。

その仕草が、笑ったように見えて、心臓がぴょんぴょん騒ぎ出した。


また、沈黙。

目は合ったまま。


先にフイッとそらしたのは、城田くんの方だった。


「…城田くん、何も聞かないんだね」


今度は、私が沈黙を破る番だった。


視線は交わらない。

カチ、と古びた時計の分針の音が響く。


「……聞いたら泣くと思って」

「あはは、泣かないよ。さっき城田くんの前で泣いて、やっと諦めついたから」


本当に、もう涙は出そうになかった。

私は、お母さんに疎まれている。きっと、お父さんが出て行ってからずっと。


もしかしたら、その前から好かれていなかったのかも。


「城田くん、優しいよね」


チラッとこっちを見やった視線と、私の視線が絡まる


「それ言ってんの久原さんだけな」



フッと、城田くんが今度こそちゃんと笑う。

胸がドキドキ高鳴る。


城田くん、無表情のこと多いから、笑うとそれだけでギャップを感じて胸がドキドキしてしまう。