当たり前のようにお互いのことを名前で呼び合っていて、もやもやした気持ちになる。
知り合いのお店って言ってたよね、ナギサさんと城田くん、ずいぶん仲良さそうだけど、どう言った知り合いなんだろう。
私のことを彼女?と聞くくらいだから、恋仲ではないと思うけど…。
昼休みにしたたまちゃんとの会話を思い出して、ぐるぐる複雑な気持ちが胸を渦巻く。
城田くんって、本当に謎。私、城田くんのことなにも知らないんだな。
「なんか頼めば」
「あっ、うん、えーとじゃあ、アイスフルーツティーで」
城田くんに促されてナギサさんにそう言うと、ナギサさんはにっこり笑ってくれる。
「おけおけ!いま淹れてくるね!大輔、ちゃんと青ちゃん、もてなしてあげてよねー?この店なーんにもなくて退屈なんだから」
「店主がそれ言っちゃまずいだろ」
「いーのよ、あんたと青ちゃんが内緒にしてくれてれば問題ないから」
カラカラと笑ってナギサさんはカウンターの奥へと消えていく。
…嵐のような人だ。
ナギサさんがいなくなると、私たちの間に流れる空気はシンと静まり返って、だけどそれは私にとっては落ち着くものだった。
でも、ずっと無言というのも…。
そもそも、私が泣いたせいでこうして城田くんはここに連れ来てくれたわけで…。
「久原さんって、結構本読むの?」
何か話さないと、だけど、その沈黙を破ったのは城田くんの方だった
まさか話題を提供してくれるとは思わなかった。
「うん、城田くんほどではないけど…私は電子書籍とかが多いかな。家でタブレットで読んでる」
「へえ」
………。
会話、終わってしまった。かも。
城田くんはどんなの読むのって、聞けば良かったな。



