忘れものかな? この席に座っていたのって、誰だったっけ。
なんて、まだ入学して二週間ほどだったからすぐには思い出せなかったけど、じわじわと浮かんできた姿に少し驚いて、好奇心からこっそり中を盗み見てしまった。
そこには英語のタイトル。
内容も翻訳がされておらず、英字がずらりと並んでいて、スラスラと読むことはできなかったけど、どうやら小説のようだった。
決して成績は悪くない方だと自負しているけど、英語が苦手な私には少し難しい本。
あとで調べたら、私も知っている有名な映画の原作だった。
それを彼が読んでいる姿は想像し難かったけれど、よくよく思い返してみるといつも本を開いてた記憶が蘇ってきて、腑に落ちた。
それから毎朝。
彼の机を拭くとき、ほんの少しだけ気にしてしまう。
なぜか持ち帰っていないことが多くて、ブックカバーの中身は頻繁に入れ替わる。
今日も、机には二センチほどの厚みがある文庫本。
この席に座っている彼は、ちょっとコワイ。
校内では有名人で、中学時代には地元ナンバーワンの不良だったって聞いたことがある。
ケンカも強くて、十数人を相手にたった一人で立ち向かって勝ったって噂もされていた、ちょっとコワイ人。
…でも、ホントは、どんな人なのかな



