「やっぱイイコだね、久原さんって」
それ以上、その話題は広がることなく終了した。
城田くんは、わたしを“イイコ”っていうけど、本当に私はイイコなんかじゃない。
私は、お母さんの言うとおり、“ワルイコ”だ。
「あの、城田くん」
いつのまにか城田くんはパンを食べ終えていて、本を読んでいる横顔に声をかける。
視線だけを私に向けた城田くんに、私はスマホを取り出しながら言った
「連絡先、交換したいです」
まっすぐ城田くんを見つめる。城田くんはさすがにすごく驚いた顔で、ポカンとしている
「はっ?」
こんな素っ頓狂な城田くんの声、初めて聞いたな
ちょっとおかしくて笑ってしまう。
「タイミング、おかしかったかな、ごめんなさい」
「いや、タイミングの問題じゃないし、なんでまた謝ってんの」
困ったように首に手を当ててそっぽ向いてしまう。
…失敗、したかな。
でも、気がついたらもう聞いてしまっていたから。
手に汗が滲む。
心臓なんか、口から飛び出そうなくらい、バクバク音を立てている
「…俺べつに面白い人間じゃないから、やめたほうがいいんじゃない」
ぼそっと放たれた言葉は、初めて向けられた冷たい声だった。



