「そろそろ高校生活にも慣れてきたろ」


と、担任である北条(ほうじょう)先生の一言で席替えをしたのは、入学してから一週間が経った頃のことだった。


そして席替えをした頃から、私には欠かせない日課ができた。


朝一番の教室。


ひだまりと木材の香りがする教室の棚にある花瓶の水をかえて、大きな窓を順番に拭いていく。


きっと誰も気がついていないし、無駄なことかもしれないけど、クラスのみんなに少しでも気持ちのいい生活を送ってほしくて。


じつは、中学の頃からずっとやっていたから、習慣づいているだけなんだけど。


窓拭きを終えると、次は窓を開けながら教室の空気を入れ替えて、最後に机も順番に拭いていく



そして、私はいつも同じところで立ち止まる。




窓際、一番後ろの席。


初めは、カバーのかかった文庫本が置いてあったからだった。