青、こっち向いて。



ふと、私はクラスメートがしていた城田くんのうわさを思い出す。

有名な不良だって言われてたけど、他校の人にも認知されてるくらいだなんて、思ってなかった。


「ケンカしてえなら買ってやるけど、どうする?」


城田くんの言葉に、完全に戦意を喪失した彼らは「チッ」と舌打ちをして、逃げるように走り去っていく。


呆然とその後ろ姿を見ていた私は、彼らの背中が見えなくなったところでその場にへたりと座り込んだ


「…久原さん、大丈夫?」


私の手を掴んだまま顔を覗き込んでくる城田くんは、いつもの彼に戻っていた。

さっき聞いた低い声はなかったもののように、少しの優しを孕んだ声が鼓膜を震わす。

大丈夫だよって立とうとしても、力が入らない

ど、どうしよう、立てない。


どうしよう、


「あの、城田くん、ごめんなさい、」

「…は、なんで謝ってんの?」


眉根をひそめる彼に、情けなく泣きそうになりながら笑って私は続けた


「…腰、抜けちゃった」


数秒の沈黙のあと、城田くんは私の手から離れて、今度は私の腕を取ると、自分の肩に回して支えながら起こしてくれる。

本当に情けないことに、ガクガクと膝は笑っているし、体は震えていた。


「この先、少し歩いたところに公園あるけど、そこまで歩けそう?」

「ご、ごめんなさい、歩ける、と思います」

「…やっぱ、そこ一旦座って」


歩けない、と判断したのか、城田くんはコンビニ前に設置されていたベンチに私を座らせると、私がさっき落とした本と袋を拾ってから私に背中を向けてしゃがむ


「ん、乗って」

「えっ、でも、え」

「早く」


極めて優しい口調だったけど、これ以上ゴネたら機嫌を損ねてしまうかもと思っておずおずと、その背中に身を預けた。

見た目よりもがっしりした体つきにキュウッと心臓が締め付けられる。