青、こっち向いて。



「…おい、ひとの女になにしてんの」


地を這うような低い声が聞こえたのは、私が心の中で助けを求めた直後だった。



声のする方を見れば、真っ赤な燃える炎のような髪。

毛先は今日放課後見たときと変わらず、ぴょこっと跳ねてて、そこには毎日教室で見ている彼がいた。


だけど、その表情も、声も、教室の彼とは全く違う。

ミステリアスな真っ黒な瞳は、冷たく細められていて、私の知っている優しさを孕んでいるはずの声は、体に突き刺さるほど鋭く響いた。


「は、なにお前、なにカッコつけちゃってんの?」


そんな城田くんを見ても鼻で笑った男の子は、私の腕をぐいっと引っ張って城田くんから引き離すように自分の方へ寄せる


「痛ッ…」


思わず痛みに顔を歪める。それと同時に、本の入った袋を落としてしまう

バサッと大きな音を立てて袋から飛び出した本が落ちる。


あっ、本っ…!

手を伸ばして拾おうとしても、腕を離してくれず、身動きが取れない


「おい、ケンカ売ってんの?ひとの女に何してんだって、聞こえなかったか?」


さっきとは違うドスのきいた声で凄む城田くんが睨みつけると、萎縮した彼の力が少し緩んで、その隙にそれを振り払って城田くんの元へ走った


「あっ、オイ!何逃げてんだよ!」


真後ろから怒号が聞こえて恐怖を覚えたけれど、城田くんが手を伸ばしてくれて、その手を取ると恐怖が少し和らぐ。

ぐいっと引き寄せられて、体が密着する。見た目とは似つかわしくない柔軟剤のやわらかな香りがした。

ぽすっと頭が城田くんの肩に当たって、あ、城田くんってこんなに背が大きいんだって、パニックに陥っているわりには、どこか冷静な頭で思った。


「お、おい、お前、ちょっとやばいって」

「は?」

「あれ、ナンコーの城田大輔だよ」


ナンコーって言うのは私たちが通っている高校の通称で、それを聞いた赤い髪の不良の顔が青ざめていく。

南高校だからナンコー。単純だ。