会社帰りのビジネスマンたちはチラチラと見て通り過ぎるし、少し離れたところには足を止めてこちらを見ている人もいる。

「何だよ、悪いのは俺じゃないぞ」

泣き出しそうな私と、周囲からの冷ややかな視線を感じて蓮斗はますます興奮しだした。

「悪いのはこいつだ。俺の女に手を出したんだからな」
「蓮斗、嘘言わないで」
私たちはもうとっくに終わっていたじゃない。

「負け犬の遠吠えだな」
フンと意地悪く笑う奏多さん。

「どっちが負け犬だよ。お前はどんなに頑張っても二番手だ。一番は俺だからな。芽衣にすべて教えたのは俺だし、芽衣がどうやったら喜ぶかを知っているのも俺だ」
「蓮斗ッ」
生まれて初めてってくらいの大声で叫んでしまった。

この人は公衆の面前で何を言い出すんだろう。

バンッ。

「え?」

ドンッ。

いきなり鈍い音が聞こえて、蓮斗が路上に倒れた。

何が起きたか一瞬分からずあたりをキョロキョロすると、仁王立ちになった奏多さんが蓮斗を見下ろしている。
どうやら奏多さんが蓮斗を殴ったんだと理解するのに数秒かかった。

「行くぞ」

立ち尽くしていた私は、奏多さんに声を掛けられ腕を引かれてその場を離れた。