「小倉君、外してくれ」
奏多さんのいつにもまして冷たい声が聞こえた。

「いや、でも」

山通の専務さんの意地悪そうな顔を見て動けなかった。
このまま私が出ていけば、きっと専務さんは怒りだすだろう。

「小倉、出ろ」
今度は命令。

こうなったら、私はここを出るしかない。
でもなあ、

「奏多君、意外と短気だなあ」

え?
さっきまで副社長と呼んでいた専務さんが親し気に奏多さんの名前を呼んだ。

「そうさせたのは専務ですよね」

どうやら2人は親しい間柄のようだ。
ホッとした気持ち半分、騙されたような気持ちが半分。
ちょっとした虚脱感を抱えて、私は副社長室を出た。



その後、私は田代課長に呼び出された。

「もう少しいい対応はできなかったのか?」
と言われれば、
「すみません」
と謝るしかない。

本来サポートするべき立場の秘書が、結果的に奏多さんに助けられた結果になってしまったんだから。
私が至らなかったとしか言いようがない。

「今回は親しい人だったからいいけれど、一歩間違えば副社長の立場を悪くすることになる。わかるよな?」
「はい」

淡々と説教され、私はうなだれて謝ることしかできなかった。