目が覚めてから30分ほどが過ぎた。
しばらくベットの上で固まっていた私は、男性に勧められ寝室の隣にあるシャワールームを使うことにした。
その間にわかったのは、ここがシンガポールのホテルの一室だってこと。
それも相当にランクの高い高級ホテルで、その中でもここはスウィートルーム。
寝室のほかにもいくつか部屋があり、バスルームも一つではないらしい。
実際私がシャワーを使っている間に、男性も奥の方へ消えていった。

人生の中でこんなに早くシャワーを浴びたことはなかったと思う。
体と髪を洗い、流し、超スピードで私は部屋に戻った。
その時にはまだ廊下の奥のバスルームから水音が聞こえていて、男性が入浴中なのはわかった。

逃げよう。
逃げ出すなら今しかない。
旅先で行きずりの人について行って関係を持つなんて、羞恥心しかない。
できることならこのまま記憶から消し去ってしまいたい。
ドライヤーをフルパワーで使って髪を乾かし、昨日着ていた下着と服を着て、私は辺りを見回した。

よし、忘れ物はないわね。
ここに長居は無用。
私はカバンを抱えて部屋の入り口へと向かった。