平石物産に就職してひと月が過ぎた。
職場の仲間にも仕事にも慣れて、楽しく働かせてもらっている。
もちろん今の生活に不満はない。ただ、あえて言うならしつこくかかってくる蓮人と奏多さんからの電話やメールが悩みの種。

「芽衣ちゃん、何で髪を切ったの?」
「えっと、それは」

仕事の合間、藍さんに聞かれ答えに困った、

まあね、若い女の子がいきなりショートカットにすれば気になって当然。
失恋かなって思うのが普通だろう。

会社のパーティーのあと偶然街で会った蓮斗に絡まれた。
復縁を迫られ、髪を鷲摑みされ、思いっきり引っ張られた。
その痛みは当分の間消えることがなくて、痛みのたびに蓮斗を思い出す。
忘れかけていた嫌な思いがよみがえってくるようで、私は思い切って髪の毛をバッサリと切った。
少し肩を超えるくらいだった長さからショートカットへの変身。
いくら務めて間がない会社の同僚にでもこうもあからさまな変化は気づかれてしまって、数日間は質問責めにされた。

「パーティーの日、何かあったの?」
「え?」

本当に、藍さんって勘が鋭い。
本人はそんなつもりはないのかもしれないけれど、こんな風に的を射たことを聞かれると困ってしまう。

「ちょうどあの頃から芽衣ちゃんの様子がおかしいし」
「そうですか?」
「元気がないな、悩みごとかなって思ってたら、いきなり髪をバッサリでしょ。そりゃあ何かあったのかって思うわよ」

蓮斗のことも奏多さんのことも話してしまったらどれだけ気が楽になるだろう。
でも、今はまだ言えない。