「やめろ」
俺は精一杯の理性を働かせ、声をかけた。

本当なら男を殴りつけてやりたかった。
目を真っ赤にして泣きはらし、痛いと叫ぶ芽衣を見ているだけで気が狂いそうだった。

「彼女、嫌がっているじゃないか」
必死に感情を押さえて話す俺に対して
「うるさい、俺とこいつの問題だ。お前には関係ない」
大声で叫ぶ男はわがままな子供のようだ。

こんな奴が芽衣の元カレなんて、最悪だ。
男を見る目がなさすぎるだろう。
それでも、このままではらちが明かない。

「君はどうしたいの?」
俺は芽衣に振ってみた。

「私には話すことはありません。会いたくもないし、同じ空気を吸うのも嫌」
キッパリ、はっきりした返事。

よし、偉いぞ、芽衣。

「ということだ。これ以上暴力を振るうなら、警察を呼ぶが?」
こうなればこっちに分がある。

「クソッ。芽衣、覚えていろよ」
案の定、男はその場を逃げ出した。