「蓮斗」
自分の声が震えているのが分かる。

できることなら会いたくなかった。

「そんなに嫌そうな顔をするなよ」

たった数か月前まで、愛する人だったはずの蓮斗。
あんなに大好きだったのに、今は同じ場所にいるのもつらい。

「久しぶりだな」
「うん」
「ずっと避けているな」
「それは・・・」

理由は蓮斗にもわかっているはずじゃない。

「仕事を辞めて、アパートを出て、電話にも出ない」
「だから、それは」

新しい彼女ができて、私の勤める会社に誹謗中傷の書き込みをされて、日に何度も無言電話がかかってくる。
そんなことされれば逃げて当然。

「芽衣、戻って来い」
「はあ?」
さすがに声が大きくなった。

この状況で、真顔で『戻って来い』なんて言える蓮斗はやはり普通じゃない。

「もう働かなくていいから、一緒に暮らそう」
「蓮斗?」

この人は一体何を言っているんだろう。
私がそんなことを望んでいると本気で思っているのかしら。
バカらしい。