「海外生活が長いから、身のこなしも優雅だったわね」
「そうですね」

私の隣に座り興奮気味に副社長の話をする藍さん。
正直、聞きたくないと思いながら止める理由も見つからなくて私はおとなしく聞いていた。

「複雑な家庭環境だから、日本にいたくなかったのかもしれないわ」
「え?それはどういう・・・」
藍さんの言葉がひっかかって、聞き返した。

藍さんは私の方を見ることなく、ぼんやりと前を見ながら話しだした。

「平石本家には二人の跡取り息子がいるの。一人は平石財閥のメイン企業であるHIRAISIの副社長の遥さん。奏多さんのお兄さんね」
「ええ」
確か、七歳上のお兄さんがいるって聞いた記憶がある。

「そのお兄さんは平石家の実子ではなくて養子なのよ」
「へえー」

お金持ちのお家なら養子をもらって家を継がせるのは珍しいことではない。
平石財閥くらいのお家なら、後継者は必ず必要だろうし。

「きっと、養子をもらってあきらめたころに奏多さんが生まれたのね」
「そんなぁ・・・」
「でもね、平石家は養子として迎えた遥さんを無碍にするようなことはしなかったの。大切に育てて、平石の後継者とした」

ホッ、よかった。

「ただ、中には血のつながった奏多さんを徴用したいと思う古株も多くて、色々と思惑があるのよ」

ふーん。
すごく嫌な気分だけれど、想像はできる。

「副社長は、奏多さんはきっとそれが分かったから高校時代から海外へ逃げ出したの」

ここまで聞いて、疑問がわいた。

「藍さん、ずいぶん詳しいですね」
ただの聞きかじりにしては情報が詳細すぎる。