平石奏多(ひらいしかなた)の実家は平石財閥の創業者一族。
日本ではそこそこ名の知れた家だ。
俺はそこの次男。
俺には七歳上に兄がいて、平石財閥のメイン企業であるHIRAISIの副社長を務めている。
あと十年もすれば兄さんがHIRAISIの社長になって平石財閥を継ぐだろうと言われている切れ者だ。

「とにかく、じいさん孝行だと思って一度帰って来い。どうしてもいやならまた海外へ出させてやるから」
「・・・わかった」

納得したわけではない。
それでも、高校時代から数えて約十年間好き勝手に生きてきたのは事実。
随分わがままを聞いてもらったって自覚もある。
ここはひとつじいさんの言うことを聞くか。何しろもう年だし、兄さんが言うように今孝行しないと後で後悔しそうだ。

「とにかく帰って来い」
「わかってるよ、もう住む所まで取り上げられたんだから帰るしかない」
「そうだったな」
ククク。とおかしそうに笑う声が聞こえた。

笑いごとじゃない。
おかげで今俺はホテルに住んでいるんだ。
会社で半分出してくれるとはいえ、半分は自腹。
それでも悔しくて、今一番人気があるホテルのスウィートを一ケ月間押さえてやった。