私は覚悟を決めて指定されたホテルに向かった。

約半月ぶりに奏多に会えるのは正直うれしい。
会いたい思いは日に日に募っていたから。
でも、黙って姿を消してしまった手前会ってしまうのが怖い気もする。

「いらっしゃいませ」

ここは都内のホテル。
先日おじいさまの誕生パーティーをしたのと同じ場所。
私はこのホテルのラウンジに行くようにと琴子さんから言われてきた。

「平石で、予約しているはずですが」
「はい。承っております」

ラウンジの責任者らしい男性に仰々しく頭を下げられ私は窓際の席に案内された。


さあ、約束の時間まであと少し。
奏多のことだから遅れてくるってことはないだろう。
あと数分後には私は奏多と対面しないといけない。

「あの、よろしければお部屋をご用意できますが」
「いえ、いいんです」

きっと、琴子さんが予約した席だと知ったうえで気を使ってくれているんだろうと思う。
でも、今日はここがいい。
誰もいない個室で奏多と2人になるには不安がある。
このくらい人がいる方が気が楽でいられる。
逃げ出してしまった後ろめたさがある分、奏多と正面から向き合うには勇気がいるから。