「シンガポールで一緒だった芽衣ちゃんとは会えないままか?」
「兄さん、何で」
そこまで知っているんだ。

「実はそのことで呼び出したんだ」
「そのことって何だよ」

何で芽衣のことで兄さんに呼び出されないといけないんだ。

「芽衣ちゃんが何で姿を消したと思う?」
「知らない」
俺が聞きたい。

「じゃあ、なぜ追いかけない?直接会って確かめようとしない?」
「それは・・・」

逃げ出したのはあいつだ。
いくら好きでも、嫌われた相手に向かって行くことはできない。

「お前は芽衣ちゃんを忘れられるのか?」
「それは・・・」

きっと無理だろうな。
見合いをしてみて気が付いた。
俺は芽衣以外の人を好きにはなれない。
芽衣を好きだって気持ちに理屈はなくて、芽衣じゃないとダメなんだ。

「このままでいいのか?」
「・・・」
「芽衣ちゃんかわいいからすぐに次が見つかるだろうな」

嫌な奴だ。
なんでわざわざ俺にそれを言うんだか。

「お前が迷惑をかけたお詫びに、俺が誰か紹介しようか?」
「ふざけるな」
「何でだよ。俺はシンガポールでの面識もあるし、調べれば連絡先だってわかるぞ」
「だからっ」
つい声が大きくなった。

「そうだ、語学が堪能だからうちの秘書課に」
「いい加減にしろっ」
俺は我慢できずに椅子を倒して立ち上がった。