「お疲れ」
「ああ、お疲れ」

約束の時間に呼び出されたバーに行くと、兄さんは飲み始めていた。

「随分早いんだな」

HIRAISIの副社長となれば忙しくてゆっくり飲みに出る時間もないのかと思っていた。

「お前とは違って、確実でミスのない仕事をしているんでね。予定時間には帰れるさ」
「へえー」

やっぱり、仕事のことで文句を言いたいらしい。
俺のことは親父や兄さんには筒抜けらしいから。

「スランプ気味らしいな?」
「誰が告げ口した?」
「風の噂だ」

フーン。
見え透いた嘘だな。

「そういえば、見合いをしたんだろ?」
「ああ」
「で、どうだったんだ?」
「どうって・・・」

政治家の娘さんで、大学を卒業したばかりの23歳。
芽衣と年齢は変わらないが、おっとりとしたかわいい人だった。
でも、この人と結婚するのかと言われると違う気がした。

「断ったんだろ?」
「ああ」

おかげで親父に怒鳴られたけれど、その気もないのにはっきりしない方が不誠実に思えたからきちんと断った。
断るくらいなら初めから見合いなんてしなければいいのにって、雄平には嫌味を言われたがな。