「あなたは母親だからお腹の子に責任があると思うわ。一生懸命育てないとって気持ちも理解できる。でもね、子供は子供で一人の人間なの。あなたが勝手に父親を奪う権利はない」
「え?」
「一緒にいたくないとか、事情があって妊娠を告げることができないこともあるだろうけれど、芽衣ちゃんの場合は違うんじゃないかしら?」

確かに、私の場合はDVでもないし、人に言えないような不幸な妊娠でもない。
私は奏多を愛していたし、好きだから妊娠した。子供にもちゃんとそう伝えるつもりでいる。

「私自身父親が誰か知らないから言うのよ、結婚するのが嫌でも妊娠は伝えるべき。その上で、芽衣ちゃんが一人で育てるっていうなら私は反対しないわ」
「琴子さん」

琴子さんはきっと、おなかの子の父親が奏多だと気づいている。
わかっていて、妊娠を告げづに逃げるのは卑怯だと言われているんだ。

「彼の負担になりたくないんです」
自分の素直な気持ちを口にしてみた。

「バカね、何で負担なんかになるのよ」
「だって・・・」

気が付いたらボロボロと涙が頬を伝っていた。