「芽衣ちゃんこっちよ」
指定された創作居酒屋の店に入ると藍さんが店の奥から手を振っていた。

「すみません、遅くなりました」

本当は定時に上がるつもりだったけれど、プロジェクトの契約内容について中国からの注文が入ってその調整に追われてしまった。
何しろ言葉も文化も違う者同士が新しく何かを始めようって言うんだから、小さなトラブルは毎日尽きない。

「プロジェクトの方、忙しそうね」
「ええ」


案内された座敷に入るとすでに乾杯は終わっていて、二十人ほどの人が騒いでいた。
私が挨拶をしようと部屋の一番奥に用意された部長達の席に向かうと、轟課長が声をかけてくれた。

「忙しいのにすまないな」
「いえ、私まで呼んでいただいてありがとうございます」
「何を言っているんだ。今日は早めの忘年会だからな。今年頑張ってくれたメンバーを労う会なんだ。だから、君もいて当然なんだよ」
「・・・ありがとうございます」

ほんの短い時間しかいなかったのに、そんな風に言ってもらえるのがうれしくて、ウルッとしてしまった。

「ほら、芽衣ちゃん何飲む?」
「えっと、ウーロン茶で」
「ええー」
藍さんの驚いた顔。

「ちょっと胃の調子が悪くて」
「もー、働きすぎじゃないの」
「そんなことないですよ」

私が働きすぎなら、奏多はもう過労死していないといけない。
私の働きなんて微々たるものなんだから。
この体調不良はきっとストレスだと思う。
でも、このまま続くようなら週明けにでも病院へ行ってみよう。
悪い病気だったら怖いものね。