「そういえば今日は総務の飲み会だろう?」
「うん。私はもう部外者なんだけれど、藍さんがおいでって誘ってくれたの」
「ふーん。いいじゃないか、楽しんで来い」
「ごめんね、奏多は仕事で忙しいのに」
私だけ遊んでいるようで申し訳ない。

「気にするな。俺のプロジェクトも大詰めだ。このままでいけば、来週のシンガポール出張で予定通り契約できそうだ」
「それはおめでとう」

奏多が日本に帰ってきて初めて手掛ける大きなプロジェクト。
ちょうどシンガポール時代のコネクションも使えてうまい具合に話が進んでいるらしい。
このプロジェクトは会社の社運がかかった大きなものだし、奏多にとっても初めての表舞台。
絶対に失敗できない大切な仕事。だからこそここのところ毎日遅くまで残業していて、奏多の帰りはいつも日付が変わっている。

「これも芽衣のサポートのおかげだ」
「そんな、私は何も」
「芽衣が英語と中国語が堪能で助かった」
「それは奏多も一緒でしょ」
海外生活が長いくせに。

「日常会話とビジネス英語は違うからな。それに、中国語はさっぱりわからない」
「私は大学で専攻していただけで・・・」

いつまでもずるずるしてはいけないと思いながら行動に移せない原因はこのプロジェクトにある。
奏多にとって大事なプロジェクトを私のせいで遅れさせたくない。そんな思いから、今回の契約までは奏多の側にいようと決めている。
来週には奏多がシンガポールに出向き、そこで契約となるはず。
そうなれば私がいなくなっても奏多の仕事に大きな影響はないと思う。
奏多が出張している一週間の間に、私は消えるつもりでいる。